睡眠はアスリートにとって、パフォーマンスを最大限発揮するために欠かせないプロセスです。今回は、いくつかの論文を交えながらその理由を紹介していきたいと思います。目次・睡眠不足がアスリートにもたらす悪影響・どのくらいの睡眠時間を確保すればいい?・睡眠時間はパフォーマンスに影響があるの?・まとめ睡眠不足がアスリートにもたらす悪影響「睡眠時間や質をしっかりと確保しましょう」とよく耳にすると思います。それは、睡眠の量や質が悪いと脳機能が低下し、パフォーマンス中の判断力や思考力が低下する可能性があるからです。例えば、トルコで行われた男性ランナーと女性のテニス選手を対象とした研究1)において、睡眠不足によって、疲労困憊までの時間が短くなり運動パフォーマンスを低下させる可能性を示し、また、中学・高校のアスリートを対象とした研究2)では、平均睡眠時間が8時間未満の選手は、8時間以上の選手と比較して、1.7倍怪我をする可能性が高くなることが報告されています。また、身体の代謝の観点からは、睡眠不足は成長ホルモンの分泌に悪影響を及ぼしたり、免疫機能の低下、筋肉の修復機能の阻害、自律神経系の乱れなど身体に悪影響を及ぼす可能性3)があることが示唆されています。アスリートにとって睡眠不足は、運動のパフォーマンスを最大限に引き出すために、切っても切れない関係であることを覚えておきましょう。どのくらいの睡眠時間を確保すればいい?アメリカの国立睡眠財団 (National Sleep Foundation)の発表4)によると、新生児 (0-3ヶ月)は14~17時間乳児 (4-11ヶ月)は12~15時間幼児 (1-2歳)は11~14時間就学前児童 (3-5歳)は10~13時間学童 (6-13歳)は9~11時間青年(14-17歳)は8~10時間若年成人 (18〜25歳)と成人 (26〜64歳)には7~9時間高齢者 (65際〜)には7~8時間の睡眠が推奨されています。一般的には、成人している場合は7時間以上は寝た方がいいということがわかりますね。また、アスリートは高強度の運動により身体にかかる負荷が大きいため、より長い睡眠時間の確保が必要な場合もあります。Birdによるレビュー(5)では、アスリートは1日あたり少なくとも「7〜9時間」の睡眠時間が必要であるが、負荷のかかり方によって回復するためにより多くの睡眠時間 (10時間の睡眠や10〜12時間の睡眠)が必要になる可能性があると報告しています。睡眠時間はパフォーマンスに影響がある?睡眠の質や量の向上は、疲労や精神状態を回復させるだけではなく、アスリートにとって自らのパフォーマンスを向上させるのに、役に立つと考えられています。例えば、スタンフォード大学の男子バスケットボールチームを対象とした研究6)において、睡眠時間を10時間に伸ばした結果、スプリントタイムの短縮、シュート精度の向上 (フリースロー率は9%、3ポイントゴール率は9.2%増加)が報告されています。そのほかに、スタンフォード大学の男女水泳チームを対象とした研究7)において、睡眠時間を10時間に伸ばした結果、日中の眠気や疲労の減少のほか、パフォーマンス(15mスプリント泳の改善、ブロックからの反応時間の短縮、ターン時間の改善、キック・ストロークの増加)の向上が見られたとの報告もあります。また、ワシントン州の大学内の男女テニス部員を対象にした研究(8)でも、1晩あたり約7時間の睡眠を9時間近くまで伸ばすことで、セカンドサーブの精度が有意に向上 (成功率が35.7%から41.8%まで上昇)し、日中の眠気が大幅に解消されたことが報告されています。アスリートのパフォーマンスの向上と睡眠時間の確保について、まだまだ研究途中ではありますが、それでも睡眠時間を確保することは、パフォーマンスを向上させるために非常に重要であると考えることができます。まとめ睡眠が足りないなと感じる人は、早く寝ることを意識して、いつもより睡眠時間を少し伸ばすところから始めてみましょう。少しずつ伸ばしていき、今回紹介した睡眠時間を目指し自分の生活にあった睡眠時間を確保してみてはいかがでしょうか。また、睡眠時間を確保することがどうしても難しいという人は、「昼寝」を取り入れるのもおすすめです。長い昼寝は寝起きの不調にもつながる可能性があるため、20分くらいの昼寝から試してみるのも良いでしょう。睡眠は、運動トレーニングや食事と同じくらい重要であるということを再度意識して自分の理想とするパフォーマンスに繋げましょう!参考文献1) O Azboy, Z Kaygisiz .: Effects of sleep deprivationon cardiorespiratory functions of the runners and volleyball players during rest and exercise. Acta Physiologica Hungarica,2009 , 96 (1) : 29–36 2) Milewski, Matthew D. MD et al .: Chronic Lack of Sleep is Associated With Increased Sports Injuries in Adolescent Athletes. Journal of Pediatric Orthopaedics , 2014,34(2) : 129-1333) Kenneth C. Vitale et al .: Sleep Hygiene for Optimizing Recovery in Athletes: Review and Recommendations.Int J Sports Med, 2019 , 40(8) : 535–5434) Max Hirshkowitz et al ,; National Sleep Foundation's sleep time duration recommendations: methodology and results summary . sleep Health,2015,1:40-435) Bird Stephen P.: Sleep, Recovery, and Athletic Performance. Strength and Conditioning Journal. 2013, 35(5) : 43-47.6) Cheri D Mah et al .: The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. sleep, 2011,34(7) : 943-507) Mah CD, Mah KE, Dement WC.: Extended sleep and the effects on mood and athletic performance in collegiate swimmers. Sleep 2008; 31: (Suppl.) A1288) Jennifer Schwartz , Richard D. Simon Jr .:Sleep extension improves serving accuracy: A study with college varsity tennis players. Physiology & Behavior , 2015 151 : 541–544